前回は、損失のてん補と損失の処理についてを記述しました。
今回は、その損失の処理をした場合に、定款の記載は変更する必要はないのか、という点です。
このように抽象的に書くとわかりにくいかもしれません。私のように頭の固い人間は、具体的な事例で考えるとイメージしやすいので、前回の事例を使って考えていきます。
AとBはそれぞれ100万円を出資して社員となりました。定款にも出資の目的及び価額として、金100万円と記載されていたとします。
つまり、定款には、
住所 有限責任社員 A 金100万円
住所 有限責任社員 B 金100万円
という具合に記載されていました。再掲しますと、設立後Bが加入した段階の持分の状況は次のとおりでした。
資本金 資本剰余金 利益剰余金
A 100万円 0円 100万円
B 100万円 0円 0円
全体 200万円 0円 100万円
この会社に損失が発生し、
資本金 資本剰余金 利益剰余金
A 100万円 0円 0円
B 100万円 0円 ▲100万円
全体 200万円 0円 ▲100万円
という状況になったため、この会社では、損失のてん補のと損失の処理を行い、次のような状況となっています。損失のてん補と損失の処理については前回の説明をご参照ください。
資本金 資本剰余金 利益剰余金
A 50万円 0円 50万円
B 50万円 0円 ▲50万円
全体 100万円 0万円 0円
この時点で、帳簿上のA及びBの出資額(資本金+資本剰余金)は50万円となっています。損失のてん補と損失の処理を行ったため、定款に記載された出資額の100万円に満たない数字となっています。この数字に合わせるために、定款の記載の50万円に変更する必要はあるでしょうか。
というのは、合同会社で出資の払戻しを行う場合には、定款の記載を減額する必要があり、払い戻す額はその減額分が限度という規制がありますし(会社法632条1項)、損失のてん補及び損失の処理をした場合も、定款の記載を変更する必要があるようにも思えます。
この点につき、会社法の立案担当者は、不要だと言っています。「『損失の処理』は、表示上の処理であるとともに、出資の払戻しの手続により交付されるべき財産の額の減少という法律効果を生じさせるものであるが、出資の払戻しと異なり、これによって、過去の出資の事実自体がなくなるからではない」(注1)ことが理由だとしています。
よって、出資の払戻しと異なり、100万円の出資自体は履行済みで変わらないということになりますので、定款に記載の出資の価額が100万円で、損失のてん補及び損失の処理により、帳簿上の出資額(資本金+資本剰余金)が50万円になったからといって、追加出資義務が生ずるわけではないのはもちろんです。
注1)相澤哲編著『別冊商事法務300 立案担当者による新会社法関係法務省令の解説』(商事法務、2006)169頁
立花宏 司法書士・行政書士事務所
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