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債務超過の合資会社の無限責任社員の退社と相続

2024年04月20日 14:59

 先日、手元に届いた「旬刊商事法務」No.2356の商事法判例研究のコーナーに、和田優哉氏「合資会社の無限責任社員が債務超過時に退社した場合における対会社責任」が掲載されていました。これは、最判令和元年12月24日民集73巻5号457頁についての研究論文です。

 今回も、合同会社の計算から離れてしまいますが、何卒、ご容赦ください。

 

 この判例理由の中で、社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときは、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情がない限り、退社した社員は、会社に対してその超過額(以下、「社員についての債務超過額」という。)を支払わなければならないという内容があり、それに対する研究が論述されています。

 この判例の対象の会社は、社員が死亡した場合に、相続人が持分を承継する旨の規定が定款に設けられていない合資会社だと思われます。死亡した社員が、相続人のうちの一人(以下、「Y」とします。)に、財産のすべてを相続させるという遺言を残していたのですが、もう一人の相続人(以下、「X」といます。)が、遺留分を侵害されたとして、裁判になったようです。

 そして、その遺留分の算定をするに当たり、会社が債務超過であるため、社員についての債務超過額の支払債務を相続財産の額から控除すべきかどうかというところが問題の一つとなったようです。退社の登記後2年を経過しており、会社債権者に対する責任は消滅しているとして、控除する必要はないという原審の判断に対して、最高裁の判断は、控除すべきという結論を出したようです。

 この研究論文の内容についてご興味のある方は、ぜひ、「旬刊商事法務」でご覧いただければと存じます。

 私はこの判例に関して、個人的に気になった点がありました。

被相続人である社員が負担すべき会社への債務は相続人に相続されたわけですが、この債務は誰が相続したのだろうか、という点です。

 今回のケースでいえば、おそらく、遺言では、「財産のすべて」には債務も含まれており、債権者である会社の承認があり、遺言に従い、会社はXには債務の履行を請求することはできないことになっているのだろうと思いました(民法902条の2)(注1)。

 ところで、会社の承認がないという前提とした場合はどうでしょうか。そうすると、会社はXに対しても、相続分に応じて会社に対する債務の履行を請求することができることになります。

 そうだとすると、遺留分の算定から前記の超過額の会社に対する支払債務を相続財産から控除する必要はないということになるのでしょうか。控除するのであれば、Xにとっては、債務は負担するし、債務を控除したために遺留分侵害額が少なくなってしまうということになるからです。

 しかし、Xが会社に対する債務を支払ったとしても、指定相続分が0のXは、Yに求償権を行使することができるはずですから(注2)、やはり、前記の超過額の会社に対する支払債務を相続財産から控除する必要があるのだろうと考えました。

 今回のお話は、だいぶマニアックな内容になってしまったかもしれません。ただ、この判例と判例研究論文は、私にとっては、社員の相続についての理解を深めるために、とても貴重なものとなりました。考える機会をあたえていただいた、執筆者の和田先生や関係各位に感謝を申し上げたいと思います。


注1)判例は相続法改正前のものですが、個人的な興味で、相続法改正後という前提で考えております。

注2)堂薗幹一郎・野口宣大『一問一答新しい相続法 平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説』(商事法務、2019)169頁 

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